【建築設計対談】建築家は何にでもなれる? 肩書きの枠を「飛び越える」ものたち
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【建築設計対談】建築家は何にでもなれる? 肩書きの枠を「飛び越える」ものたち

一級建築士という肩書でも意匠設計、設備設計、構造設計、施工管理と携わる業種によって求められるスキルが異なります。今回は、意匠設計の「建築家」という肩書に焦点を絞り、その中でも住宅設計をメインとする「個人」設計事務所と、大規模施設設計をメインとする「組織」設計事務所という、建物規模や用途、設計アプローチ、プロジェクト進行が大きく異なるお二人をお招きします。「これからは建物を建てるだけが建築家の職能なのか?」それぞれの視点で、今の建築家の職能と、今後のあり方についてお伺いしました。

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安江 怜史(やすえ れいじ)
一級建築士。大学卒業後、住宅メインの設計事務所で経験を積み、2014年「安江怜史建築設計事務所」設立。
現在も住宅を主軸に活動を展開している。
https://ry-arch.com/

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吉岡 達裕(よしおか たつひろ)
一級建築士。「株式会社梓設計」アーキテクト部門所属。主にオフィスビルや公共建築などの大規模な建築の設計を行う。

ー 本日はよろしくお願いします。まずはお二人の自己紹介をお伺いしてもよろしいでしょうか?

安江 滋賀県立大学の建築学部を卒業して岐阜に帰り、住宅メインの設計事務所でまず働きました。はじめから2年で辞めようって思ってたので、2年で辞めて、一級建築士の資格を取得し、そのあとは違う岐阜市内の住宅メインの設計事務所に入りました。そこで10年働いて独立し、今は6年目です。
2つ目の事務所は結構担当者にお任せな感じがあって、ほぼ1から10までお施主さんと担当者がやる。といったスタイルだったので、独立を考えている環境でいくと、とても経験値が積めました。なので事務所に不満はなかったんですが、結局は会社員だから打ち合わせの時間や現場に行く時間は制限されてしまい、そういうジレンマがあって独立しました。「独立する」って事務所に言った時は自分がやる予定の物件があったわけでもなく、辞めるときは、独立しても年間に1件ぐらいは問い合わせくるんじゃないかなって、軽く考えつつ辞めたんです。前の事務所にあれだけ仕事が来るんだったら一件くらいおこぼれがあるんじゃないかって。それもありませんでしたね。(笑)しかも、2つ目の事務所は元々仕事が沢山あったので僕自身営業の経験はほとんどなかったんです。
たまたま辞めるってなった直後ぐらいに友達から設計を頼まれたから良かったものの。それから紹介、紹介という感じで今も結構な割合で紹介のほうが多いですね。

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吉岡 僕は、出身が岡山なんですよ。大学は神戸の大学の建築学科に入りました。大学院まで行って、普通に就活で今の会社に入社して転職などは一回もしたことがなく、今の会社の中で10年目です。
僕は36歳なんですけど、計算すると辻褄が合わないんです。というのも、浪人も留年もしたので大学時代が長かったんです。学部時代も結構フラフラしてて、1年留年している間に道に迷って。このまま建築に進むかどうかを迷った時期があったんですよね。そんな時に、大きな建築から離れたことがしたいと思ったんです。それで芦屋にインテリアデザイン事務所があって、たまたま機会があったので一年間大学を休み、少しインターンをしてました。
大学を辞めてこのままこの事務所に居ようかなって思った時もあったんですけど、最終的にはその後大学院に戻るっていう決断をして、卒業し、就職をしました。
一回アトリエ系設計事務所にも気持ちが傾いたことがあって、どこで働くか揺れていた時期はありましたね。

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設計できるは当たり前。新たな仕事を生み出す力とは?建築家こそ寄り道を。

安江 昔に比べるとよりコミュニケーション能力が高くないと、設計の仕事で食べていくということが難しくなっていく気がします。良いものを造ってればよかった時代は終わったという感じもしますね。たまたま僕も吉岡さんも規模は違えど、建築学科に入り、アトリエ設計事務所なり組織設計事務所なりに就職するという、建築設計者の多くと同じようなキャリア形成をしている。でも、建築だけやっていたらいい、という感じでもなくなってきましたね。今の若い子って、若いうちに違う寄り道している子が多くなっている気がしています。僕らの時と全然違う。でもそのほうがこれから建築をやっていく上で大事なんじゃないかなって思います。

吉岡 そうですよね。

安江 寄り道しといたほうが良かったなって、今になって思うことはすごいありますね。

吉岡 確かに。結局は建築設計って、仕事を受けて、やる。言い換えれば「受け身」というのが基本スタンスじゃないですか。基本受け身になってしまうんですけど、今の世の中のなかで、建築だけで完結することって、どんどん少なくなってきていて。だから「仕事が来るまで待つ」っていうスタンスってあまり上手くいかなくなるはずなんですよね。もっとこう取りに行くじゃないけど、「自分から提案するスタイル」つまり、造るものが決まってなくても、何かしら動けるようなモデルを作らないとこれからは生き残れないのかなって思いますね。

安江 その点で言うと、谷尻さん(*)は仕事の取り方や広げ方をすごく考えられてますよね。

*谷尻誠
建築設計事務所 SUPPOSE DESIGN OFFICE代表 兼 建築家 兼 起業家。
https://suppose.jp/

吉岡 まさにそう。オンラインサロン(*)に入った理由もそこかもしれない。

*オンラインサロン「社外取締役」
建築設計事務所 SUPPOSE DESIGN OFFICE 代表 谷尻誠、BETSUDAI Inc. TOKYO CEO 林哲平、BEAMS コミュニケーションディレクター 土井地博が主宰するオンラインサロン

安江 僕もそうかもしれない。でも周りを見ていても僕らのような、ステレオタイプみたいな人たちの方が多い。

吉岡 そうですよね。僕もすごく思います。

安江 それを打破していかないと、これからはやっていけないという危惧もありますね。

間取りを考えるだけでなく、間[マ・アイダ]を取ることができるのも建築家。

ー 谷尻さんのように誰かと組んだり、建築の外に可能性を見出して仕事を生み出している人も増えてきていますよね。昔のいわゆる先生と呼ばれる建築家のように、象徴的な建物を創って設計活動している人は逆に今は少なくなったように感じます。このように二極化する中で、お二人が考えるこれからの建築家像とその職能の可能性についてお聞かせください。

安江 僕はどちらかというと、「モノとしてかっこいい建築を創る」みたいな立ち位置の事をやりたい訳ではなくて。誰かと一緒にやる方が楽しいし、だから別に「自分の作品」を創りたいという訳でもないんです。独立したての頃は、建築関係の知り合いや友達のコミュニティはあったんですけど、それ以外は全然なかったんです。でも独立して色々動いたりしていくと、全然違うジャンルの経営者の友達ができはじめて、その人たちの話を聞いてると、「建築の世界って狭いんだな〜」と改めて思ったんです。設計した「そらのまち保育園(*)」は、これまでずっと住宅設計をしていたので、初めての保育園設計だったんです。だけど初めてだから出来ることが多くて。というのも、保育園と住宅はもちろん違うので、住宅設計での当たり前が、こちらでは当たり前じゃないんですよね。こういう「当たり前じゃない事」が、他業種の人たちと喋るとたくさんあるんです。そういう面で外部の目があって一緒にやるという事が僕は理想だなって思っていますね。人と喋るのも好きですし。

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*そらのまち保育園
安江 怜史さん設計の保育園。1階フロアに総菜店を併設し、子どもも大人も集える新しい形の保育園として、2020年グッドデザイン賞を受賞した。
https://www.solanomachi.com/

吉岡 それは、僕も一緒かもしれないですね。昔の建築家の先生に憧れる気持ちはメチャメチャあるんですよ。

安江 分かる分かる。

吉岡 丹下さん(*)の作品のようなカッコいいものを見て、好きで建築学科に入ったんですよね。ただ、今のことを考えると、かっこいいフォルムのものとか、美しい建築を創るっていうだけで成立しないようなところに来てるのかなって思うんです。モノとして、プロダクトとしての建築だけではもう語れないのかなって凄く思います。

*丹下健三(1913-2005)
戦後日本を代表する世界的建築家。代表作に広島平和記念公園、香川県庁舎、代々木第一体育館がある。

安江 使っている人が魅力的で、建築はそのおまけというか、ただの箱っていうか。そこの中で面白いことやっている方が実は両方活性化されていいのかなって。

吉岡 いわゆる昔のプロトタイプの建築家っていう方向に進みすぎちゃうと、どんどん閉じられていってしまう。それって結局、建築っていうジャンルが死んでしまうことにもあるのではないかと思うんです。だから外に開いていくっていう方法を考えないといけないなって思いますね。建築設計スキルの良い所って、なんだか真ん中という所かもしれませんね。すごくアーティスティックな表現ばかりでもない。というのも例えば、力学的シミュレーション(=構造)をきちんと満たすということで形態が縛られるし、それに法規や予算が絡んでくる。人が安全に使うものなので、そのために必要な性能であったり、避難できるルートを取らないといけないとか、そういうルールがいっぱい建築には付いてきますよね。ガチガチのルールの中で、なにか面白いものを創ろうっていう姿勢。つまり、なんでも自由にやっていいわけではないけど、なるべく自由にしたい。こういう間を取るのが上手いのが建築家の能力の1つであるような気がしていて。

安江 なるほどね。

吉岡 その能力の可能性って実は「何にでもなれる」ってことかもしれませんね。僕の大学の同期で建築に進む人もたくさんいるんですけど、全く違う分野の人もたくさん居るんです。例えば、広告代理店で働く人とか、マーケティングの会社に行ったりとか。でもそういう人たちに「何でそこに行ったの?」って聞いたら、「いや今も大学で考えていることの延長なんですけどね」という人が多いんですよ。例えば、歴史研究をずっとしている人で、様々なものを取りまとめて、そこから新しく見えてくるものを論文にするような事をしてると、それがそのまま企業のマーケティングでやろうとしていることと本質的に重なったり。大変なフィールドワークやリサーチをコツコツやって、データを作って、その土地に対してのアプローチの方法を考えるといった能力。プラス、それを最後形に変えるっていうデザイン力みたいなものをどっちも持っていると。「建築学科で学んだスキルは、何者にでもなれる可能性を持っているんだな。」と、大学で色んな人を見て思いました。

安江 そう。何にでもなれる。

何にでもなれる、「ひと」が好きだからこそできること。

ー 例えば住宅でいえば、よくハウスメーカーさんと比較されることが多いと思います。「どういう暮らしができますか?」というより、予算ベースで「いくらでできますか?」という話に落ち着いてしまうこともしばしばありますよね。「大きい家がよい」「高いお金を出したから良いもの」ではなく、もう少し暮らしに対して開けていける手助けのようなものも必要なのかなと感じています。そういった所に建築家の職能を生かすことの可能性などは感じますか?

安江 ハウスメーカーの話だと、ちゃんとしたマッチングができればハウスメーカーで建てたほうが良い人もたくさんいるし、建売のほうが良いっていう人もいっぱいいるんだけど、それがミスマッチだと不満が出たり。それをどういう風に解消していくかは分からないけど、僕に聞いてもらえれば、「ハウスメーカーの方がいいです」とか、「注文住宅の方がいいですね」などを言ってあげられるんです。ハウスメーカー側もお客さんに対して「このご要望なら設計事務所の方がいいですよ」って言ってあげられたら、その人も幸せだし、「こんなはずじゃなかった」なんていうクレームにもならないだろうし。それをどうマッチさせるか。マッチングサイトとかですかね?

吉岡 いろいろなものをみんな自由に選べる、というのは良いかもしれないですね。家となった途端に選択肢が狭まってる気がしています。

安江 それはお金が大きいということもあるし、「その世帯年収で払っていけるのか」という事も計算しなくてはいけなくて、結構踏み込まなきゃいけない。

吉岡 服装は自由にオーダーメイドで作ったりだとか、オシャレなものに興味があるのに、家になると急にマジメになることって結構ありますよね。

安江 「雑誌で見たこういう家に住みたい」というのはあるのに、どうしたらいいか分からないから、とりあえず住宅展示場へ行って、そこで決めてしまう事が多い。選択肢を広げるために自分で調べれば行き着くんだけど、普通はそこまで調べないですよね。展示場でいろいろ見て、その中で決めてしまう。うまいことミスマッチを無くすべく、設計施工でデザインにフォーカスして感度の高い層を取りに行く展示場もあるだろうし。個人事務所の強みもあるんだろうけど、大きな組織力にはどうしても勝てない。僕らから見ると設計事務所ってそれぞれ全然違うんだけど、お客さんからするとそんなに差がないと感じられていることが多いんですよね。だから個が立つ集合体じゃないけど、個人の集まりが集合体になって、その中でこの人にはこの事務所が一番合うっていう事ができると面白いなと思いますね。

吉岡 結局そういう意見って第三者じゃないですか。ニュートラルな位置にそういう人や集合があって、「あなたとマッチングするのはきっとこういうジャンルですよ」という道を整備できる人がいたら喜ぶユーザーはいますよね。

ー 「建築家」という肩書きって外部の人から見ると、横一列に見えるような気がしているんです。でも安江さんのおっしゃる通り、そのプロセスもスタイルもまったく違いますよね。

安江 お客さんも「一緒に考えたい」という場合もあれば、「あなたのことを信頼しているのでお任せします」という場合もあります。もちろん性格の差もあるので、人としての合う合わないもありますしね。

吉岡 結局「人」だと思いますね。

安江 いまはSNSやネットで情報が溢れているから、お施主さんのほうが詳しいこともよくあるんですね。そういう事に興味があるお客さんをどう取り込むか。新しいものをこちらから提案する事って難しくて、使ってみたいんだけど、マイナス要素を考えてしまって一歩が踏み出せない。でも、お客さんがやりたいとなると「やりましょう」ってなる。

吉岡 まとめてできたらいいですけどね。家だけを造るのではなくて、その人の創造するライフスタイルの一部に家も入ってる。そのライフスタイル自体もプロデュースするみたいな事ができたら本当に面白いんですけど。全体をまとめるスキルっていうのが、建築家としての強みで、それが結果として衣食住全体を良くすることに繋がっていく。

安江 お客さんと一緒に、なりたい形を追い求めていく中で、必然的になるべきものになっていくのかな、と思いますね。

ー あらゆる事象を想定・検証・実装するスキルが必要だからこそ、「何にでもなれる」のかもしれませんね。クライアントの要望に対して、形だけでなく、目には見えない様々な事象をデザインできるという意味で「何にでもなれる」。住宅、事業施設、まちづくり、あらゆることにおいて今後さらに求められていく建築家像の1つかもしれませんね。
今回は肩書きを飛び越えたお話をお聞きできました。お二人ともありがとうございました。

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▲安江さん設計の愛知県の住宅

中野警察署庁舎_南東側外観

▲吉岡さんが関わった中野警察署庁舎。一見派手にみられる建築家だが、建物が建つまでに実は多くのストーリーが存在する。

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